更新日:2015/03/03
「地域は人々を守る最前線」を理念とした東海の地域防災を考える研究会(地域防災研究会)は、2015年2月26日・27日(金)に三重県東紀州地域の防災対策を調査しました.調査は、木股先生(東濃地震科学研究所)を団長に、前田先生(三重大学)、浅井先生(日本福祉大学)、山田会員の5名で実施しました。調査対象は、26日午前に尾鷲市防災危機管理室、26日午後に紀北町危機管理課、27日午前に大紀町防災安全課、27日午後に南伊勢町防災課を訪ね各地域の防災対策について伺いました.当日は、大紀町錦地区の住民からお話を聞きましたが、紀北町の住民の方が都合が悪くなり、地域住民が取り組んでいる現場を木股先生に案内していただきました.
今回の現地調査は、名古屋市港区での調査に続くものです。研究会では、自治体や自治会が取り組む地域での防災対策の現状と課題を明らかにし、事例研究をもとに地域防災ブックレット「人々を災害から守る街」(仮称)を発刊しようと考えています.今回の調査は、地域防災対策の現状と課題を明らかにすることを目的とした調査です.
ハードとソフト対策を進める尾鷲市
尾鷲市は、人口19,544人(15年2月1日現在)、総面積の90%が山林に覆われ平坦地が少なく集落はリアス式海岸の湾奥に位置しています。過去に安永地震、安政地震、昭和東南海地震、チリ津波、71年に発生した三重県南部集中豪雨では死者26名の命を失いました。南海トラフ地震による津波特別地区に指定され、最大津波高がこれまでの9mから17mに想定されたことからタワーの建設や防災情報相互通報システムの構築と行政に依存するのでなく自分たちが主体となって早期避難を実現する住民主導型避難体制確立事業を進めています.その他、自主防災組織の育成、避難路等整備事業、防災教育の推進、孤立対策事業に取り組んでいます。今後は、行政依存の意識から住民の意識の向上、市職員内意思統一、要援護者対策が課題となっています.
自主防災会などが協議して整備が進む紀北町の緊急避難場所を視察
三重県北牟婁郡紀北町は、人口17,367人(15年2月1日現在)、世帯数8316世帯です.05年(平成17)に紀伊長島町と海山町と合併をしました。紀北町では津波の心配とともに風水害に対する対策が重要課題で、この3年間台風が来る前に自主的に避難をする避難場所の整備が進められてきましたが、まだ、インフラ整備が追いつかないようで27年度に海岸津波タワーや高潮防止のための防潮堤の建設が検討されています。課題は、要支援者対策、住民意識の向上、二次避難場所の整備です。特に、毎年豪雨、台風等で河川の浸透水により、幹線道路の浸水、家屋の床下浸水の常時発生する出垣内地区では、紀北町、自主防災会、国土交通省紀勢国道事務所が紀勢自動車道の道路管理用施設を津波発生時に緊急避難場所として活用できないか協議がされ、工事が進められています。防災会会長は「近年は三重県の河川対策等により、河川水の浸透が抑えられていますがいつも住民は、浸水に対して心を痛めて生活をしています」と胸の内を話していただきました。そのため、住民意識の変革を促す防災教育、防災会単位のこまめな話し合い、地区ごとの対策、行政機関の統一的な対策が課題で、一番は「住民の意識の低さかな」といいます。
宿直当番担当が避難命令を発令する大紀町
三重県度会郡大紀町は、人口9541人、4262世帯(15年1月末現在)で高齢化率が40%を超えています.05年(平成17)に大宮町、紀勢町、大内山村が合併しました.この調査では、旧紀勢町の海辺に位置する錦地区にある錦庁舎でお話を伺いました.大紀町は昭和19年の東南海地震の6m50㎝津波の被害を教訓に「人の命は何より大事、一人の犠牲者も出さない」を方針に「地震発生後5分以内に避難できる高台の確保」を目指し、海抜20mまで避難できる山斜面の避難所整備、高台避難困難地域には避難塔「錦タワー」を2基平成10年と25年に建設しました.さらに、海岸一面を津波から守る防潮堤の整備が減災対策事業として一部進んでいます.この町の特徴は、これらハード面の整備とともに、宿直の職員が津波警報が発出されなくても、町長の判断を待たず独自に避難命令を知らせるサイレンを鳴らすことです.火事の発生など緊急な事態に効果をあげています。これら判断の最高権限者は町長ですが、不在の場合は支所長、支所長不在の場合は防災課長としています.今後の課題は、現在調査を進めている自主防災会活動のあり方、要支援者リストの作成といいます.リスト作成は自治体職員が訪問して確認をしていいます.大紀町錦は、約2000人、950世帯、32自治会があります.
高齢化率92.59%の地域で取り組む健康体操で地域力を向上させた南伊勢町
三重県度会郡南伊勢町は、人口14,267人、6236世帯(平成27年1月末現在)高齢化率が約45%と高い.245.6㎞海に面した南勢町と南島町が05年(平成17)に合併した町です.財政力指数0.215と大変財政が厳しい自治体です.まちづくりの基本方針は3.11以来「安全で安心してすめるまち」を第一の目標にするなど180度転換したそうです.町内38地区を担当する職員を決め、地域住民主体による地区独自の「地区防災対応行動方針(計画)づくりを進めています。自治体財政に依存しない知恵を出した方策が目立ちます.観光協会と旅館ごとの避難経路を作成する取組、次のリーダーを育てる高校での防災教育、防災照明灯・蓄電インバーター・家具固定器具を民間会社と共同開発する取組、庁内では総務・産業・福祉などの課長会議で職員が一体となった取組があります。すでに、町では要支援リストを作成したが、防災システムの改善や災害時援助協定が県を中心に包括的に締結できることを課題としています。
2日間、各自治体職員から丁重な防災対策の説明を受け、それぞれの地域での職員の苦悩と課題が明らかになりました.私たち研究会は、今後、詳細に調査結果を整理して、地域防災対策へ政策提言ができるようとりまとめをすすめたいと考えています.ご協力いただいた皆様方には心から感謝申し上げます。ほんとうにありがとうございました.
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